庭の草刈りに鍬(くわ)を使っているので、耕しているようにしか見えない中塚です。
お店をオープンしてからというもの、世の中の消費財の価格がやたら気になるようになった。
今までは「一消費者」としてのみ、市場の一端を担ってきたけれど、消費財の「生産者」としての一端も担うようになったからだろう。
「価格」と「価値」を混同してはいけないことは常々自分に言い聞かせてはいるが、そもそも値決めの時点で「なぜその価格になったの?」ということを今まであまり考えてこなかった...。
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▼相場ってなに?
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僕たちはモノやサービスの「相場感覚」というものをたいてい持ち合わせている。
例えば、「コンビニの水は100円だ」「ランチは1,000円でしょ」「TVショッピングは表示価格からだいたい2割下がるよね」など...。
いちいち考えもせずにモノと価格を結びつけているはずだし、同じ消費財であれば少しでも安い方を好む。
生産側も1円でも安く提供することを是とし、企業努力に勤しむ。
物価が30年もロクに上がらなかったせいで、ガリガリ君が10円値上げするだけで大騒ぎするこの国。
その間、所得は上がらず徴税は厳しくなっているのだから、ますます安いモノが好まれる。
お店をオープンするときに、初めて「価格を決める」という体験をした。
ヘアサロンの価格はお店によってバラバラ。
別に1000円にしてもいいし1万円にしてもいい。
正解があるとすれば、1000円〜1万円の間で一番利益が上がるであろう価格ということになるが、
そんなものは誰にも分からないし、というかやってみないと分からない。
大事なのは軌道修正を繰り返すこと。しかしスタートの時点でなるべく"正解"に近い価格設定が望ましい。僕が設定した価格はカット+シャンプー+顔剃りで4500円...。
ほとんどの同業者から「高過ぎる」と言われた。
本当にそうだろか...
4500円が「高い」か「安い」かを決めるのは同業者ではなく「お客様」だ。
まぁ...どっちが間違っていたのかはおのずと明らかになる。
僕たちの業界は熾烈な競争環境ではあるが、幸い「言い値」でお客様から代金を請求できる範囲が広い。損益分岐点を下回らなければ"技術料"として高い付加価値を付けてもいいし、逆にギリギリの価格を付けてもいい。お客様からすれば値段が安いに越したことはないだろうが、市場に出回る"安い製品"と同じように、お客様はいちいちそのコストパフォーマンスに対し敬意を払ってはくれない。
むしろ少しでも値上げしようものならすぐに、「良心的では無い」とか言い出す。
"値段に込められたメッセージ"を受け取らないし、値段の背景にある大勢の人や企業の「苦労」や「尽力」を決して汲み取らない。
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▼付加価値を奪うな
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大抵の人は「値決め」というものに関わることはないだろうが、世に中の消費財には当たり前だが「値段」が付けられている。
それらの値段がどうやって付けられているのか、考えたことはあるだろうか?
一般に知られているのは、「需要と供給」のバランス。たくさんあるモノは安く、少ないものは高いというアレ。
確かに価格競争を起こしているのはいずれも供給過多な業界だ。
飲食業、あんまマッサージ業、印刷業、歯科医院、そして理美容業など...。
反対に供給に対して需要が少ない業種というのも少ないが存在する。代表的なのは携帯キャリアやテレビ局などの電波独占事業、国家が運営する宝くじや競馬などのギャンブル事業、そして限りある土地を運用する大手不動産業も、ある意味独占事業かもしれない。
これらの業界は価格競争が起こりにくいので利益率が高いが、参入はほぼ不可能。
このように基本的には需要と供給のバランスで値段が決まるとはいえ、両者はニワトリと卵の関係に似ていて、マーケットイン型(需要に対応)とプロダクトアウト型(需要があるかは分からないが供給してみる)のどちらのパターンもある。
マーケットイン型は「価格競争」を生み、プロダクトアウト型は「プレミアム(ブランド)」を生む。
そして日本で重視されてきたのが、マーケットイン型(需要に対応)の値段設定。
近年は「購買力」が価格に反映されるケースが本当に多いなと思う。
まぁ企業からすれば「販売力」ということになるのだが、わかりやすいところで言うとユニクロのように「この価格で売るためにコストが計算される」という逆説的な理論。
「販売力」を笠にきてサプライチェーンが締め付けられている。
価格が決まる理由は需要と供給という話をしたが、そもそもサプライチェーンの特性上、安売りするにも限界がある。
例えばアパレル業界であればまず
①生糸や革など原料の「調達」
ここには生産者やバイヤー、商社などの人達が関わる。
②職人技術や工場での「生産」
ここにはデザイナーやマーケター、工場労働者や機械のメンテナンスの人達が関わる。
③小売店や消費者に届けるための「流通」
ここには運送業者や倉庫業者などのロジスティック企業が関わる。
④リアル店舗やECでの「販売」
ここにはアパレル店員、スタイリスト、写真家、ECサイト運営業者や決済システム業者などが関わる。
さらに言えばこのサプライチェーンの経済活動を直接または間接的に支える銀行、株主、不動産、人材育成、研究、広告などのステークホルダーの存在を忘れてはいけない。
こららの全ての業者の「付加価値」が価格に反映されていることを想像すべきだ。
なぜお水が100円もするのか?
なぜレタスが300円もするのか?
なぜ本が2000円もするのか?
なぜ散髪代が4000円もするのか?
一言言わせてほしい.....するに決まっている!
皆、買い叩かれながらも創意工夫によって必死に利益を出している。
いや、場合によっては契約を続けてもらうために文字通り身を切りながらやりくりしている。
あなたがスーパーで働いているとして、「商品価格を引き下げるためにあなたのお給料を10%カットしてもいいですか?」と言われればどうだろうか?その要求に耐えられるだろうか?
僕たちが安いものを追求し過ぎるから、供給はそれに答えようとする。
それはとりもなおさず、これらサプライチェーンの関係者が生み出した付加価値を奪う行為に等しい!
理容業界もほとんどのお店のカット料金は1200円〜3500円。
繁盛している店でもそうそう値上げはしない。
なぜなら値上げをするとお客様は悲憤慷慨すると思っているから。
お客様第一主義といえば聞こえはいいが、そのために自分の時間や家族との時間、商品を卸してくれる問屋さんの利益、下手すりゃ自分の健康まで犠牲にしようというのだからお人好しが過ぎる。
安い=正義の時代はとうに終わっている。
どこまで安さを追えば気が済むのか。
大量消費に慣れすぎて皆完全に麻痺している。
安さに飛びついてたいして必要のないものを買いまくった挙句が「断捨離」だ。
アパレル業界の廃棄は日本だけでも年間10億点、食品でも毎日全ての人がお茶碗一杯のご飯を捨てている計算らしい。
安いものを買わなければ生活が成り立たないわけではない。
必要のないものを買うから、安いものにしか手が出せなくなるのだ。
自戒をこめて思う。今一度、消費活動を見直してみよう。
そして本当に価値のあるものを見極めよう。
消費は投票だ。
